こおした旅館

こおした旅館 ― 宇佐神宮参道に佇む、和の宿の再生

□プロジェクト概要

宇佐神宮は全国に約4万社ある八幡社の総本宮であり、神仏習合発祥の地として知られています。2025年には御鎮座1300年を迎え、全国から多くの参拝者が訪れる神聖な場です。境内には国宝の本殿をはじめ、多くの社殿が点在しています。

「こおした旅館」さんは、この聖地の参道沿いに佇み、長年にわたり参拝者を迎え入れてきた宿です。1300年という節目に約50年ぶりにリニューアルすることになり、弊社が設計・監理を担当しました。観光庁の補助金も活用しつつ、宿泊・食事処の営業を極力継続しながら、7ヶ月半にわたって段階的に再生工事を実施し、2024年12月にリニューアルオープンしました。

 

□設計コンセプト

設計の出発点は、「宇佐神宮らしさとは何か」という問い。

一般的に神社への参拝体験には、鳥居をくぐり、社へと続く道を歩き、社殿の前で手を合わせ、さらにその奥のいる御神体へと心を向けるという、重層的な空間構成によって精神性が深まっていくというプロセスがあります。

宇佐神宮もまたその例に漏れず、初めの大鳥居をくぐり、橋を渡り、森を抜け、また複数の鳥居と門をくぐるというように、複数の領域をゆるやかに通過しながら本殿に至ります。訪れる人はその過程で自然と心が整えられ、奥へと導かれていきます。この体験を参道沿いの旅館でも感じられるよう、空間構成や素材、色彩の設計に取り組みました。また、社殿を彩る鮮やかな朱と緑の色彩も、宇佐神宮を象徴する要素ととらえています。

 

□空間ごとの設計と工夫

参道に面したロビーと食事処では、宇佐神宮の社殿に見られる格子窓をモチーフにした格子棚を巡らせています。格子棚は壁で仕切るように視線や音、気配を完全に遮るのではなく、場と場の境界をやわらかく提示します。また、その棚のリズムに合わせて開口を設けており、そこをくぐる体験そのものが、まるで鳥居や門をくぐる時のように領域を移動する感覚を呼び起こします。さらに、格子棚は宇佐神宮の色彩を引用した朱と深緑の和紙で彩りました。床や天井の素材や色味により、空間ごとの雰囲気を僅かに変え、領域がゆるやかに移り変わる様を表現しました。このような工夫により、神宮での参拝体験がここでも連続する空間としています。

お客様を出迎えるレセプションカウンターは、側面を木瓦、天板を敷き瓦で仕上げました。この木瓦は神社の木屋根と寺院の瓦葺きの要素が合わさった意匠をしており、神仏習合を表現できる葺き材であると捉えました。神社参拝の最初に通る御手洗と、宿でのお客様の宿泊が始まるレセプションカウンターとを重ね合わせ、重厚かつ静謐な意匠としました。

大浴場・小浴場では、正方形のタイルや円形の鏡など、神社建築に見られる幾何学の美しさ・象徴性を随所に引用しています。湯船から眺める庭や坪庭が、四季の変化や自然の気配を感じさせます。

客室は全8室のうち6室を改修。その中でも「藤ノ間」と「松ノ間」は上質な客室として全面的に再構成しました。「藤ノ間」は、和風の落ち着いた空気感を活かしつつ、照明や内装仕上げを現代の感覚で整え、落ち着きと華やかさのある空間に仕上げました。「松ノ間」はベッドを設置した和洋室で、滞在の快適性と特別感を高めたこのお宿の最上級のお部屋です。

大広間には可動間仕切りを設け、行事や宴席の規模・用途に応じて柔軟に空間を使うことができるようにしました。また、階段は既存構造の上に新しい段を重ね、緩やかで安全な昇降が可能となるよう段差や勾配を再構成しました。

 

DATA

所在地:大分県宇佐市南宇佐

用途:旅館・お食事処

構造・規模:混構造2階建て

建築面積:498.00㎡

延床面積:845.06㎡

竣工:2024年12月

撮影:今枝あき(KINOCO PHOTO)

WORKS一覧へ

尋ねる

なんでもお気軽にお尋ねください。
就職やインターンシップに関するお問い合わせもこちらからどうぞ。

チェックを入れてください