鷹来屋ガーデン ささら

Fermentation culture experience facilities

酒蔵の歴史を未来へ繋ぐ新しい発信の拠点となる

 鷹来屋は明治 22 年創業の造り酒屋である。1979 年以降 17 年間は委託醸造となり、自社の蔵での製造は完全に休止していたが、蔵から立ち上る白煙を見ながら育った現 5 代当主は、1996 年に自らが杜氏として自社醸造を一から再開。日本ジオパークに登録され、水の豊かな土地の恵みを受け、久住山系伏流水の軟水とその土壌が育んだ自家栽培の米を原料に、完全手作りにこだわって酒造りを行っている。小規模ながらも種類豊富な商品を打ち出すことで酒蔵としての認知度を高めてきた鷹来屋は、新たな課題として、その歴史を次世代へ発展的に継承していくことを目指している。日本酒の醸造過程では、活用しなければ産業廃棄物になってしまう酒粕が生まれる。これまでも石鹸やプリンなどの商品を開発し、それを有効活用することで、酒以外の商品の可能性も拓いてきた。その試みをさらに広げ、持続可能な食文化を推進するために、酒造り由来のノンアルコールメニューの提供や、料理教室、ジオパークの学習教室を開催する。そうした発信活動の拠点として、気軽に立ち寄ることができ、土地の豊かな自然を感じながらゆっくりと過ごせる集いの場が求められ、この新施設が誕生した。
 井路や溶結凝灰岩の石垣、緑溢れる山々から成る集落の風景のなかにある新施設は、道路と水路を挟み、鷹来屋の酒蔵および直売店の真向かいに位置する。当初、建築物を道路沿いに配置して目立たせることも検討されたが、相対する新旧施設に挟まれた空間が豊かに繋がることを目指し、セットバックすることで庭を設けた。それは、新施設を既存の酒蔵や集落の環境へと繋ぐ緩衝地となり、酒蔵の、あるいは地域の余白となりうる。さらにデザインに際して、当初は昔ながらの酒蔵を感じさせるような丸太や梁の小屋組を見せる設計も検討されたが、コの字型のコンクリート壁に九州産杉 CLT 折版構造屋根を架けるシンプルな構造を取ることによって、柱や梁を通さずにひと繋がりの広々とした空間を実現。庭側の全面をガラス窓とし、庭に向かって開放した。庇は、切妻屋根のスラストを抑える機能を持ちつつ中間領域を成し、室内と庭を接続している。その繋がりは、敷地内を越えて、石垣、水路、道路、既存の酒蔵、さらには集落や農業環境へ広がってゆく。素材選びでは、9万年前の阿蘇山噴火で堆積した凝灰岩や、それに質感を合わせたコンクリート壁、周囲と勾配を合わせた切妻瓦屋根を採用し、この土地に堆積した時間との接続を持たせた。また、酒造りのストーリーを語らせたテラゾーのテーブルや、日本酒や日本食が引き立つ色合いのイチョウの天板ど、様々な用途に対応しながらも酒が生まれた環境を肌で感じられるようなインテリアによって空間を構成している。
 「人の集える庭を作りたい」という鷹来屋の主人の強い願いが実現し、酒蔵の活動がまちと環境の一部となり、ここを拠点にさらに波及していくことを後押しする空間となった。

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